1990年代後半の金融危機により、北海道拓殖銀行や山一證券などのかつて名門と呼ばれた銀行や証券会社が次々と倒産していくなかで、その社員たちの去就が話題になることがありました。
特に印象的だったのは、金融のプロであったはずの彼らの多くが、資産のかなりの部分を自社株に投資して運用していたことです。 勤め先の会社が倒産した彼らは、仕事による収入がなくなった上に、金融資産までも失ったのです。
仮にも金融機関に勤めるエリート社員なので「分散投資」という言葉を知っていたはずですが、自分の勤める会社は大丈夫とタカをくくっていたために自社への「集中投資」という極端にリスクの高い投資をしてしまったのです。
国内株式・外国株式・国内債券・外国債券などに、「分散」して投資のリスクを減じる「分散投資」について、資産運用の入門書を紐解けば記載していない書籍は無いほど極めて基本的な知識です。
しかし、「分散投資」は”投資”だけではなく、”投資”ではない”自分の職業”まで含めて考えるべき知識であることに思いが至らなかった方があまりに多かったのです。
”仕事のリスク”を回避するには、自分のビジネスと資産運用の投資対象を分散させる必要があります。ビジネスで強みを発揮するには、一般的に経営資源を集中させる必要があります。
経営資源を集中させないと、激しい競争を勝ち抜いていくことが非常に難しいからです。しかし、資産運用まで自分のビジネスと同じ業界にしてしまうと、業界の状況が悪化すると北海道拓殖銀行や山一証券の社員のように共倒れになってしまいます。
もちろん、自分のビジネスに出来るかぎりの経営資源を集中させる努力は行うべきですが、資産運用に関してはできるだけ自分のビジネスと相関の低い投資対象を選択するべきだと思います。
株式投資などを行う際に、私は決して自分のビジネスと同じ業界の銘柄には投資しません。マゼランファンドで有名なピーター・リンチは、「自分のよく知っている業界に投資せよ」と言っていますが、”仕事のリスク”を回避するという観点からはナンセンスだと思います。
少なくとも一般投資家のレベルでは、その業界に精通しているからといって株式投資で成功する可能性は全く高くありません。したがって、できるだけトータルでのリスクを下げるためには、可能なかぎり資産運用は自分のビジネスと相関の低い投資対象で行うべきだと思います。